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ヨコハマガールズ

ジュリエット・ラブ

内容 第1話   堕ちたプレイボーイ
                              


 ヤクザの女を奪った。
 それを知ったのは新千歳空港、羽田行きの便の搭乗ゲート。ケイタイの電源を切ろうとしたところ、会社の先輩岩下からメールが届いてた。
 《大変なことになったよ。一昨日の合コンで千鶴君がお持ち帰りした女、彼女にはじつは男がいたんだ。その男は街金をやってるヤクザで、逮捕監禁、恐喝、傷害の前科者。君があの日彼女とホテルに行ったことをどうやら彼女の口から聞き出したみたいなんだ。それに男はどういうわけか君が今日九時の便でこっちに帰ってくるのを知ってしまったらしい。もう彼女には電話もメールもするな。そしてしばらくこっちには戻らないほうがいい。僕はこれから取引先に向かう。君をあの合コンに誘ったのは僕だ。すまないと思う。この埋め合わせはきっとする》
 搭乗ゲートに並ぶ長蛇の列を離脱するとすぐに岩下に電話を入れた。事情がよくわからないし、この便に乗らなければ羽田行きの便は一日中満席だったし、それに今日はクライアントとの契約日だ。午後四時に会社の応接室で。
総額で百二十億有余。東京のとある離島に、近場で行ける楽園を作るというとんでもない構想計画。粗利はざっと見ても三十億。経営危機に瀕してる会社にとっても、リストラ要員の一人に上げられてる俺にとっても願ってもないチャンス。


第2話  ユーロビートを止めないでっ!
                            



 乙女の園?
平均して、あと十歳くらい若けりゃそうかもしれない。でも、ここにいるのは惨敗兵ばかり。女の子たちに夢と希望を与え、指南役を買って出ているはずなのに、その上辺の華やかさからは想像だにできない兵隊たちによってファッション誌に新たな息吹が毎回吹き込まれている。
人気雑誌と呼ばれ、購買部数になって現れるのは、彼女たちの敗れてきた恋の数々への怨念なのか、それとも現実を強く生きる同じ女たちへのエールが効を奏したのか、はたまたいつかきっとわたしたちもと願う彼女たちの意地が昇華された結果なのか、そのすべてを知る者はだれもいない。ただ、ひとつ確実に言えることは、雑誌を手にした洒落好き、化粧好き、もしくは男好きの女たちが、作り手である彼女たちよりも数段に綺麗になり、それを参考に自らの女の武器を駆使して、男たちのウィークポイントを突いてゲットしまくっているという事実である。圧倒的多数の女たちが綺麗になるのとは正反対に、圧倒的少数の彼女たちは毎日のサービス残業とストレスと将来への不安が、ますますその性格までブスにさせている。せめてもの慰みは、雑誌で取り上げるアパレル系広報担当のイケメン、モテメン君たちである。彼らは所謂、彼女たちのストレス処理班でもある。そのためだけに雇われた兵隊といっても過言ではない。ギブ・アンド・テイク。彼女たちも最初はそんな風に割り切ったり、玩具だと言わんばかりの態度を示すものもいるが、最終的には男に食い物にされるというパターンが一般的なようだ。


第3話  ヨコハマガールズ
                          



 「サウナに、ボルボに、フリーセックス」
 「それがどうしたの?」
 「いいよなあ。社会福祉も充実してて世界最高水準の暮らしだってさ」
 「だから?」
 「北のベニスだってさ。景色も最高なんだろうなあ。それに北欧美人。綺麗だろうなあ」
 「結局、ヤリたいだけじゃん」
 「セックス?君だけいれば俺は満足さ」
 「ウッソー」
 タクヤが観光パンフを閉じるとわたしの唇を塞いだ。昨夜から数えて通算五回目の小宇宙でのランデブー。わたしはいつも彼の為すがまま。と言っても、マグロじゃないよ。セックスで受身なのはきっと彼しか知らないから。でも、いいんだあ。それが初恋で、しかも結婚というオマケまで付いてるんだからさあ。
 まあ、少し不満なのは彼がいつも決まったコースでプレイしたがるってこと。それでも気持ち良いんだけど、時にはなにかこう、ゾクゾクするようなオプションくらい付けて欲しいよねえ。うーん。でも、愛し合ってるから、まっいっか。


第4話  いつか君と二人で見る夕陽のために

                           


「あっ」
女の素っ頓狂な声が洗面所から響いた。
今では素っ裸でもなんの躊躇いも示さない女が洗面器を指差した。良い体付きならまだしも、これじゃあ普通の男なら興ざめだ。
 仕方なく女が見守るなか、排水口のUの字に折れ曲がった片一方を取り外し、中からパッキン部分を外し、中にあったそれを拾い上げて女に渡した。
 「私って割り切れるタイプだからさ。これ外すのは最後の良心ね」
 フン。不貞を働く女が良心だと。まったく呆れるね。そう呟くそうになり、やめにする。
 女がシャワーを使う音が擦りガラスの向こうから聞こえてくる。
 鏡に映った自分の顔を見ていた。年の割には老けてない。身体のラインは細いが筋肉質。背は高く、少し前髪を落としたショートヘアが顔全体にボーイッシュで柔和な表情を与えていた。
 逆パターンならよくある話だが、女は二十四歳、一夫二子の家庭持ち。遊ばれてるのは俺のほうなんだよな。


第5話  ボランティア部
                              



 毎週水曜日、夜六時。仙台駅東口、バス停そばの木製ベンチがわたしたちの活動場所になる。とくに水曜日にこだわる理由はない。しいていうなら、酔っ払いがもっとも少ない曜日ではないのかという何の根拠もない憶測によるもの。そこでどんなことをするのかというと、ストリートライブでも募金でも手相占いでもない。人の話を聞くというごくシンプルなボランティア活動をするためだ。
もともと内申書に部活をやっていたと書かれたほうが好印象だろうと姑息な考えが浮かんで、今年はじめにチャコと星村さんとはじめたボランティア部。思えばいろんなことをやった。校庭の清掃活動にはじまり、老人ホームを訪ねて折り紙やお手玉をしたり、幼稚園で寸劇などもやった。果てはラブレターの代筆や喧嘩の仲裁を買って出たこともある。ある意味何でも屋だった。毎回違うことをやっては楽しんだ。


第6話  十五年後の家族計画
                               


 ねえねえ、君は、ちゃんと将来のこと考えてる?人生設計は大丈夫?
たとえば、何歳までに結婚しようとか、子供は何人ほしいとか、貯金はどれだけ貯めようとか、マイホームの購入時期とか、いろいろあるだろう。ああ、前もっていっておくけど、これは生命保険の勧誘とかじゃないよ。ただ君が、あるいはみんなは、いったいどうしてんだろうと、ちょっと気になったもんだからね。けっこうその日暮っていうか、ただたんとなく毎日を生きてる人って意外と多いと思うんだよね。中学か高校か大学を出て、そのあと社会人になるまではこういうふうに進もうかなあ、なんてなんとなく決められるんだろうけど、さらにその先のこととなると、みんなほとんど漠然としか考えてないんじゃないかな。わかってると思うけど、これは夢とは違うんだ。ぼくが言ってるのはあくまで予定の話なんだ。つまり夢よりも現実的で、前向きで、すぐそこまで迫ってる近い将来のことさ。人生なんてなるようにしかならないよ、なんていう人がいるけど、なるようにしてこそ人生だと思うんだよね、ぼくは。もちろん、こんな偉そうなことをいう手前、ぼくにはちゃんとした予定があるよ。まあ、いいかえれば計画なんだけど、これがまたでっかい計画なんだ。どんな計画だって?それはね、つまり――。


第7話  覚醒する
                              


 「水着の女の子をたくさん撮ってきてくれませんか?」
 ハゲ、デブ、メガネ、と見事に三拍子そろった元祖日本のエロ社長的風貌の金沢が、右手でそのでっぷりと突き出た腹をパンパン叩きながら、もう一方の手はブラウスのボタンがいまにもはちきれそうな、その豊満ボディーが目のやり場に困る、秘書兼愛人の多香子の肩において、くくっと笑ったのがちょうど十日前の昼下がり。
がんがんにクーラーのきいた部屋だった。ぼくはウン十万もするという革張りのソファーに座っていた。曲名は知らないがよく耳にしたことのあるクラシックの心地よい調べが流れていて、たしか目の前のテーブルにはシロップたっぷりのアイスティーが、ほら飲めよとばかりにこれ見よがしにおいてあった。それがいまは矢のように降り注ぐ太陽光線と熱したフライパンのような砂にサンドウィッチにされている。水気がなくなった口の中では舌が干し柿からスルメみたいになり、足腰は鉛のベルトあるいはギブスを巻いたように重く強張り、繰り返し垂れ流される有線放送のJポップを強制的に耳の穴にこじ入れられている。ついでにサンオイルを塗りまくった焼けた肌が放つ芳しい臭いは食欲を減退させるため、かなりのダイエット効果が期待できそうだ。


第8話  裸心
                             

 家出少女は使い勝手がいい。彼女たちが求めるのは、まず食べ物。つぎに寝る場所。そしてなによりもカネだ。だから売春させるのも、それほど難しいことではない。
以前は金に困ったOLや小遣い目当ての女子校生をよく使っていた。しかし彼女たちはなにかと管理しづらかった。ドタキャンするわ、突然連絡が取れなくなるわ、客とトラブルになることもしばしばだった。

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