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桜に愛して

中村 広二

内容 夜の高速道路をセダンは走り抜けてゆく。
初老夫婦は沈黙の中走り抜けるアスファルトに描かれた車線をじっと視線で追っかけている。
車内のラグジュアリーな装備は通り抜ける度に街灯の灯を反射する。
高速を照らし出す街灯の灯をタイヤが次々と踏む付けると光の輪が2人をする抜けて行く。
カーステレオから流れるジャズは、2人の沈黙とは関係なく社内をリズムで満たしている。
沈黙は続く。どの位光の輪をすり抜けたのだろう。さゆりは思いにふけり右手のひらを頬につけたままだった。
夫は運転しながらさゆりの様子を伺い続けた。マイルス・ディビスのトランペットは2人の沈黙を遮った。
大型の貨物トラックが、セダンを追い抜きファザードランプで合図した。
強引な割り込みに二人は驚き目を合わせた。
「なあ。気を落とすな。君のお母さん十分長生きしたさ。天寿を全うしたんだ」
喪服を着た2人は正面から向かい合うように座席の座る位置を変え話し始めた。車は真っ直ぐ進んでゆく。
さゆりは静かに夫の優しさに促され紅ののった口を開き言葉を出した。
「そういうわけじゃないわ」
「だったら何だと言うんだ。葬儀は立派なものだったろう。おかあさんのために縁故にしてくれた大手企業の会長さん
まで参列していただいたんだ。おかあさんは幸せものだよ。」
「母は若い頃商売してたからその時にかわいがっていた頂いた。お客様よ。」
「銀座のママしてたんだっけ。この話題は今まで避けてたね。互いに・・」
「あなたの知ってる母は施設と浮浪生活をしていた薄汚いおかあさんだもの。若い頃の母は本当に綺麗だった。」
「なあ、お母さんとの想い出話してみないか。」
「そうね。」
そう、さゆりは頷くと、もう一度身体の位置を正面に向け、目に涙を貯めながら夫に語り始めた。

出版中村 広二

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